Release date : May 8, 2024 |
アインシュタインがかつて以下のような言葉を残したと言われています。
If the bee disappears from the surface of the earth, man would have no more than four years to live. No more bees, no more pollination, no more plants, no more man.
もしミツバチが地球の表面から消えてしまったら、人間の余命はせいぜい4年しかないでしょう。ミツバチがいなくなれば、受粉も、植物も、人間もいなくなる。
ご丁寧にこんな画像まであります。
それでは以下の画像を見てください。
実はHetemeel.comというサイトでいくらでも作れます。例えば…
アインシュタイン先生に自分のサイトを褒めていただけるなんて光栄です
さて。笑い話はここまでとしてこのアインシュタインの言葉とされるものについてみていきましょう。世の中ではこの言葉が乱用されています。「あのアインシュタインが語った。」となれば言葉にも重みが感じられる。要するに「虎の威を借る狐」です。
でも本当にアインシュタインは言ってないのでしょうか。
①ヘブライ大学
アインシュタインの名前や顔写真の権利を主張してヘブライ大学が莫大な利益を得ています。詳しい話をすれば学芸員のゼエブ・ローゼンクランツ氏といった方も紹介すべきですが、ここの趣旨から逸脱しますので、興味がある方はご自分で調べてください。
言いたいことはアインシュタインのパブリシティ権を始め、あらゆることに関してヘブライ大学が管理しているなかでは彼の論文や言動といったこともこの大学はチェックしているわけです。儲けられることは見逃さないw そのうえでヘブライ大学においてもアインシュタインが語ったという蜜蜂の話は論文や書簡、講演での発言などのなかで一切、見当たらないと表明しています。上に表示した画像も訴えられそうですね。
②たとえ話
世の中には偉人の言葉が溢れています。それらについては今回の話と同じく真偽を確認したほうがいいですね。ではそういう言葉は何故残っているのか。それはその偉人が言いそうな言葉だからです。例えばガリレオ・ガリレイは彼の支持した地動説を口実に異端審問で追及されるようになり、追い込まれたりしたなかで「それでも地球は回っている」という言葉を残したとされています。本当でしょうか。この言葉が記載された当時の文献は無く、おもに18世紀ごろから文献に記されるようになりました。原文が正しいかも怪しいですが、「E pur si muove」そのまま訳すと「それでも動く」になります。地球なんて文字はありません。ただ「それでも地球は回っている」という言葉はガリレオ・ガリレイが言いそうな文言ですね。
さてアインシュタインに話を戻すと彼はいろいろな言葉を残しています。天才と言われる彼の言葉はとても印象的です。一つ、紹介すると「神はサイコロを振らない。」
物理学を突き詰めたアインシュタインは自然現象は全て理論で説明できると考えていました。そのなかで量子力学に対しては懐疑的だったと言われています。20世紀に入ると奇妙な現象が確認されました。同じ条件下の実験において同じ実験結果にならない事象が見られるようになったのです。ボーアなどの「確率論」派は「測定した瞬間に”確率的”に結果が決まる」と考えましたが、アインシュタインは確率、つまりその場でのさまざまな結果を「神がサイコロを振っていろいろな目が出る」ことを否定する意味で「サイコロすら振らない。」もしくは「サイコロを振る前に結果は決まっている」という意味でこの発言をしたわけです。
量子力学とはミクロな世界における現象を解くもので、アインシュタインが考えたマクロな考え方に反してミクロの世界では同条件下においてさまざまな結果が出ることを前提にしており、半導体などを使用するパソコン・携帯電話などではこの量子力学が応用されています。アインシュタインが間違っていたわけではないのですが、このように古典力学とは違う「不確定性原理」も踏まえたうえで見ることで、古典力学と量子力学は互いに補填し合っていると言えます。
③フェイク・ニュース
世の中には間違った情報、フェイク・ニュースが広まっています。画像は簡単に加工が出来て、音声さえも本人の声で「言ってない言葉」がAI生成にて生成される。動画も加工できますね。さきほど紹介した画像ではアインシュタインが黒板に私のサイトを称賛していることを書いているように見えます。ありえないですね。時代すら違います。そう、違うと分かるわけです。では「違う」と分からなければ…? それはまるで事実のように語られていくわけです。「アインシュタインが蜜蜂の話をした。」彼ならば語りそうな言葉です。ただ、冷静に考えてみるとアインシュタインは量子力学すら否定した人物です。彼は理論を重んじていて、物理学を研究していたわけです。そんな彼が、他の生物学者が言った言葉にインスピレーションを得て、「ミツバチがいなくなったら、人類は4年の寿命」などと語るわけがありません。それこそ、その言葉を立証することなど出来ないわけですから。
さて、他にもアインシュタインが言っていないのに彼が語ったとされる言葉を見ていきましょう。
①「狂気とは即ち、同じことを繰り返し行い、違う結果を期待すること」
②「悪は、人間が心の中に神の愛を持っていないときに起こる現象だ。それは熱がないときの冷たさ、光がないときの闇のようなもの」
③人はみな天才なのに、魚を木登りで評価したら、魚は自分がバカだと思い込んで一生を過ごすことになる。
④数えれられることすべてが大事なわけではないし、大事なことすべてが数えられるわけではない
そして「神はサイコロを振らない。」あら、先ほど私が紹介した言葉です。実は1942年にプリンストン大学のコルネリウス・ランチョスに宛てた書簡ではもっと長い言葉です。
「僕と同じ物理観(シンプルで整合性のある何かを通して現実を理解しようという態度)をもつ人は僕の知る限り君だけだ…神の切るカードを覗き見ることは難しい。だが神が賽を投げ『テレパシー』的な方法を使うなんて…僕は一瞬たりとも信じられない」
You are the only person I know who has the same attitude towards physics as I have: belief in the comprehension of reality through something basically simple and unified… It seems hard to sneak a look at God’s cards. But that He plays dice and uses ‘telepathic’ methods… is something that I cannot believe for a single moment.
まぁ、短くしただけですし、行っている意味は捻じ曲げられていないのですが… He doesn’t play dice.とは言っていないですね。こうやって言葉というのは伝える人によって変化していくものなのです。
さて大元の話に戻しましょう。
ミツバチは本当に絶滅するのかを考えましょう。アインシュタインが言うくらいですからこのミツバチは「セイヨウミツバチ」でしょうね。確かに蜂群崩壊症候群といった出来事が起きているのは現実です。日本には二ホンミツバチという日本固有の種がいます。この二ホンミツバチは減少が危惧されていますが、絶滅危惧種ではありません。むしろ日本に養蜂が始まり、そこで飼育されていたのがセイヨウミツバチであるとともに、二ホンミツバチはセイヨウミツバチに生息地を追いやられることとなりました。なんてことない、人間が外来種を日本に持ち込んだ結果です。さて現在ですが、一時期よりも国内の養蜂業が衰退したため、日本においてはセイヨウミツバチの個体数が減少しましたが、そのために二ホンミツバチの個体数は増えたと言われています。ただ、外来種のダニが日本に持ち込まれたために被害が広がっています。結局、人間によるものです。報道されている「ミツバチの大量死」はおもにセイヨウミツバチのことで、二ホンミツバチで見られるものではありません。
北アメリカではアフリカナイズドミツバチを持ち込んで養蜂業を行っています。このアフリカナイズドミツバチは攻撃性が強く、キラー・ビーと呼ばれることもあります。ただ、かなりセイヨウミツバチとの交配が進んで、攻撃性は薄れてきていると言われています。
さて、そもそもですが、アメリカには元々、セイヨウミツバチは生息していませんでした。
あれっ?と思いませんか? 蜜蜂がいないと人間は4年の寿命なんじゃないですか? ヨーロッパ人が養蜂業のために持ち込んだセイヨウミツバチ自体がアメリカにとっては外来種であり、それまではセイヨウミツバチがいなくても植物の受粉は行われていたわけです。むしろ巣箱という人工物を使って機械的に繁殖させていること自体が自然の行いではありません。それで大量死とか騒いでも「そもそもが自然に逆らっていること、それへの報い」とも言えます。
それでもミツバチが絶滅したら大変ですよ。その意見は分かりますが、二ホンミツバチが増加しているという点も踏まえて言えば、「ミツバチが絶滅するほどの環境汚染が進んでいたら、人間にも十分に悪影響が起きるほどの環境破壊が進んでいる」ということ。
蛇足になりますが、セイヨウミツバチは一種類の花から蜜を集めるのに対して、二ホンミツバチは様々な花の蜜を集めます。素敵な言葉で二ホンミツバチの蜜は「百花蜜」とも呼ばれています。セイヨウミツバチに生息数で圧倒された二ホンミツバチですが、むしろ雑種の逞しさのようなものがあるんですね。逆に言えばセイヨウミツバチの脆さも感じられます。
ではアインシュタインの言葉はどうしてここまで広がったのか。これは、アインシュタインの死から約 40 年後の 1994 年に遡り、ブリュッセルで行われた欧州農業政策に反対するイベント中に配布された「フランス全国養蜂連盟 (UNAF:Union nationale de l’apiculture française) がデザインしたパンフレット」から引用された言葉です。なんてことない、物理学にすら掠っていないフランス全国養蜂連盟が言い出した言葉です。それこそ「アインシュタインが言った」として信ぴょう性を増してミツバチの絶滅を訴えたわけです。意識向上のため。このフランス全国養蜂連盟はフランス政府に対して意見を一致させて交渉を優位に行うための組織で、フランス政府の機関とかではありません。パンフレットを作った人も自分のウィットに富んだ記事が30年の時を越えて日本でここまて浸透するとは思っていなかったでしょうね。要するに嘘だと分かってしまえばそれまでのジョークのようなものだったわけです。
1977年にイギリスのテレビ局アングリア・テレビジョンが同年6月20日に「第三の選択」という番組を放送しました。本来なら4月に放送する予定だったこの番組は諸事象があり6月放送になったわけですが、放送内容に「4月1日」の文字や登場人物の配役をよく見ればフィクションであることが明白なのに、4月1日に放送できず6月になったことからいろいろな憶測を生むこととなりました。日本でも1978年4月に放送されるほどの盛り上がり。特に着陸船が火星に着陸する際の外部カメラの映像で、着陸した地表が不自然に盛り上がると何かが地中を這いずっているかのように見え、宇宙飛行士と思われる人物が地球外生命体を発見したと叫ぶシーンが衝撃的でした。前述のようにエイプリルフールの放送がずれたことで視聴者に冗談が通用しなくなった。放送直後、アングリア・テレビジョンには電話が殺到したそうです。いや、陰謀論者は未だにこの番組はフィクションではないと言っています。
フランス国民に宛ててというよりも政府に対する意見声明のために作成したパンフレットの記載が、海を越えて日本でそこまで信じ込まれるなんて製作者は思ってもみなかったでしょう。こういうウィットに富んだものに慣れている海外の方にとっては「あぁ、煽り文句でデタラメを言ってるよ。」と笑い飛ばすのでしょうが、「第三の選択」をショッキングな映像として信じ込むような日本人です。それもインターネットで尾ひれがついて真実のように語られてきた「アインシュタインの言葉」はジョークとして受け止められなかった。そう、海外では「アインシュタインと蜜蜂」の話なんてまともに受け止めてはいません。真実のように語られているのは日本くらいなんです。それでもこの言葉とアインシュタインとの関連はないという記事を掲載している日本のサイトもちらほら見かけます。こういうのを見ないんでしょうね。
ここで関暁夫氏が語った言葉を紹介しましょう。
「ある一定の光の速度を越えると、ここの空間全てが歪むんです。だから硬いと思っている鉄とか床とかもグワッと曲がるんです。ということは簡単に言って空間はあって無いようなものだということを解いたものです。その解いたゆえにアインシュタインはこの世の果てを見てしまったわけです。」
関氏はアインシュタインが舌を出した写真を、「彼が世界の果てを見てしまったが故の行為」だと言ってます。何を言っているのでしょうかw
先の発言は漫画「AKIRA」について関暁夫氏が同番組内でコメントを求められた際に行った発言。なんかアキラの手の中で光が集約していくのにやられて、こんな痛い発言をしたのでしょう。光の速度は一定でそれを越えることはありません。空間が歪められるのは超重力によるもの。外部から監察したなかで物理現象を越えたように見えた事象も当事者にとっては物理学を超える現象は起きませんので、当事者がいる空間では鉄とか床とかがグワッと曲がりません。恥ずかしい限りですね。
まぁ、関暁夫氏の話は蛇足ですが、こういうオカルト芸人にかかるとアインシュタインの言葉も歪めるだけ歪められるわけです。
さて、ここまでの話を信じるか信じないかはあなた次第ですが、どこか頭の片隅に置いてインターネットに数多ある記事を見てみるといいでしょう。「アインシュタインが語った」「…とアインシュタインが語ったように」誰かが書き込んだ記事を鵜呑みにして、どんどんと間違ったことが拡散しています。さて、どうするか。簡単です。「〇〇が語ったように」そういう文言がある記事があるのなら、一度「本当か?」と思って紹介している人物の発言を他で探してみると良いです。嘘を鵜呑みにするのは自分の責任。これ、飲み込んでいいのかと見直してみるのが賢明な考えです。
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