SPAWN #124

「貴方は私を信頼しなければいけないわ。アル」
これは起こりえないことだ。俺は自分が誰なのか、どこから来たのか知らない。ここ数日間で起きたこと以外の自分の人生が思い出せない。そして今、自分は死ぬ運命にある。NYXが振り上げた剣はアルの胸に刺さった。そしてNYXは傷口を大きく広げ、アルの心臓をむき出しにした。NYXは、説明できないがアルは今、二つに分かれてしまっているのだと言う。自分自身の影から離れていったものがある。それもアルの一部だ。それ無しでは長く存続することはできないのだ。それをアルに再度、結びつける必要がある。だが、アルは彼女の言葉を聞いてはいたが、ほとんど耳に残らなかった。これは悪夢よりも悪い。地獄だ。しかもNYXはアルの心臓に長い縫い針を突き刺し、縫い始めていた。するとアルは全てを思い出し始めた。 これは自分の人生だ。いや、それは正しくない。俺は二つの人生を持っている。アル・シモンズとして、そしてSPAWNとして。俺から逃げ出した魔物は俺の一部。自分の影ではない。俺の一部。自分の魔物。自分は真実を知らないことで幸せに生きてきた。知らぬが仏だ。だが、それが自分の目の前に浮かんできた。俺がしてきた全ての馬鹿げた行動、思慮のない間違った行動が見えてきた。ワンダ。彼女に手を上げてしまう時もあった。彼女は俺よりももっと価値のある人間だ。THE REDEEMER。彼は俺を救うために魔界まで来てくれた。それを置き去りにした。彼を救うのに指一本すら動かそうとはしていない。フォルスバーグ。自分の狂気の影によって飲み込まれそうになっていた男。彼をそこから解放するために連れ戻った。それは嘘だ。俺は感情無しに人を殺してきた。後悔すらせず、疑問も持たず。 自分の痛みのなかで、自分を一人にせず愛してくれた者たちへの信仰を捨てていた。俺はとても多くの苦しみを引き起こしてきたが、それが今、自分へと戻ってきた。人として、モンスターとして。俺はWynnのせいにした。テリーのせいにした。悪魔のせいにし、神のせいにした。だが、今、俺は気づいた。全て自分の失敗によるものだと。自分以外に誰のせいでもない。

やがてNYXはアルの心臓を縫い上げた。その形は五芒星だった。すると、町には突風が吹き、窓が壊れた。天井には裂け目ができ、そこから蟲たちが降ってきた。大量の蟲たちが湧いて出てきて、アル・シモンズの身体を埋め尽くす。そしてアルの身体の中へと吸収されていった。NYXには何が起こっているのか、分からなかった。アルが遂に目覚める。「お前は嘘を言っている、雌犬め。俺に何をしたんだ！」アル・シモンズの胸にはMの字が描き出され、瞳は黄緑に光っていた。「私は貴方を助けようとしたの。」「助けるだと。自分がしたことを見ろ！」アル・シモンズの脇からは鎖が飛び出し、NYXを縛り上げた。「何故、俺を一人にしておこうとしなかった？」アル・シモンズは完全にSPAWNへと変身してしまう。「お前は俺を破壊したんだ。」そう言うとAl:Spawnは窓から外へと飛び出していった。

「ウィン君、どうか我々の謝罪を受け入れてくれ。」政府の幹部たちはJason Wynnに話しかけた。Wynnはスーツを与えられ、かつての彼の姿を取り戻していた。「我々の仕事には行き過ぎた手段を取らざるをえないことがあることを承知だろう。」「もちろん。」Jason Wynnは遂に権力の座を取り戻したのだ。Wynnの傍らにはクラウンの姿があった。だが、監視カメラにはクラウンの姿など映らない。Wynnはクラウンに言う。「どんなことでも出来る気がする。」クラウンが答える。「いい答えだ。Wynn君。これが我々の美しい友人関係の始まりだと思うね。」