SPAWN #138

街は暗闇の中を突き進んでいった。夜は無音のうめき声とパニックの叫び声に別れていた。マンハッタン島は封鎖された。そこにいた人々はケージの中のネズミのように囚われていた。そのネズミに起きたことが自分達自身に起こってしまうのは時間の問題だった。それにもまして狂った笑い声が千人の喉からこだました。太陽と月が街のうえで入れ替わるまで沢山の時間が残されていた。そこら中に混乱と地獄絵図が広がっている。憤怒と恐怖が後に続く。Al:Spawnは辛うじて立ち上がるまで、死ぬ一歩手前まで奴らと戦った。奴らは街を恐怖の坩堝へと貶めた。奴らが通ったところには誰も生きておらず、Al:Spawnは皆を救えなかった。 しかしAl:Spawnは兵士だ。躊躇う余地はない。不安を抱く余地もない。彼は何をすべきか知っている。それは彼の中心の、本能より深い部分に焼き付けられていた。最初に彼は自分自身の強さを鼓舞する方法を見つける。自分の武器を増強する。Al:Spawnは街にある銃砲店から銃器を調達する。それから装備を身に付け、奴らの頭を狙い始めた。街は暗闇の中を突き進んでいった。混乱と地獄絵図。Al:Spawnは皆を救うことは出来ない。だが、一人だけなら救うことが出来る。

その頃、NYXはMammonとの話を続けていた。「私は言わなければいけない、NYX。君が乗り気でないことに私は侮辱されたと思っている。私が提示する取引に応じることが懸命だ。君を騙そうと試みているわけではない。私は忘れていた。君は異教徒だ。君は魔界の存在を信じていない。事実と異なり、文字通りではない。君は多分、抽象的概念として魔界のことを認識している。母なる宇宙の恩恵に浸ることとの調和から魂が抜け落ちる兆しだ。しかし、私は断言しよう。とても現実的で、君の友人Theaは魔界について嫌と言うほど分かっている。私は信じている。だが、まだ君を助けない。その、たぶん君は私を出し抜くことが出来ると思っているからだ。 アパラチアのフォークソングで悪魔を騙そうとしているまぬけなヒーローのように。愚かな少女。君は何故、天界が純粋なまま、途切れのない楽園の状態にされているか知っているか？　同時に魔界は反目し合う小さな領土、いつも小競り合いしている状態に分割されている。何故なら、魔界は強者であり、もしも統合することがあれば、天界は一時間もしない間に切り捨てられるだろう。そこには偉大な力があるのだ。想像しえない力だ。そして君は自分が思うより妄想的だ。」するとNYXはMammonの話を遮った。「止めて！何故、あなたは私を一人にしてくれないの？　私はあなたの話に加わりたくないの。」「My Dear、ドミノの駒は倒れない、何故ならそれを望んでいないから。次の順番にいたから倒れるのだ。 運命は、導かれることを望んでいる人を導き、望んでいない人も無理矢理引きずって行くんだよ。NYX。」

「おい、豚野郎。説明でもしたいか？」建物の屋上からサムとトゥイッチの車に少年が落ちてきた。ところが、そこにいた人々はサムたちが少年に暴行を加えていると思ったのだ。トゥイッチが少年を病院に運ぶ必要があると言っても信用しない。するとそこにカメラマンを連れた女性インタヴューアが現れ、サムにマイクを向ける。闇に包まれている場所で警察による蛮行が事件に見せかけて行なわれている。「ニューヨーク市警がブラックアウトに乗じて蛮行に及んだ訳を教えてください。お巡りさん、コメントを！」だが、サムはマイクを跳ね除けて言った。「出ていけ。パラサイトめ。これがゲームとでも思うのか。ライブ中継だと。お前らの点数稼ぎのために騒いでいるんだろう。」サムの言葉はきつかったかもしれない。 そこにいた人々はサムの態度に腹を立てていた。ついにトゥイッチは群衆に拳銃を向ける。「警察が行うことを邪魔するなら…」だが、そこに市警のヘリコプターが現れる。拡声器で群衆にそこを立ち去るように告げるアナウンスがあると、人々は渋々立ち去っていく。

屋根の上からなら、よりはっきりと見えただろう。その混乱のなかにパターンがあることを。でたらめな行為に見えて、フロントガラスの上の雨粒のようにまとまったものがある。それはほほ確実にトラップだ。Al:Spawnはその跡をついてはいかない。Al:Spawnはゆっくりとだが、獲物を囲むライオンのように確実に行動していた。彼らに手の内を見せないように。また数人のクラウンズに出くわした。自分がいかに弱いかなど奴らに思わせてはならない。世界中が息の根を止めているかのような重い沈黙がある。そして奴らの攻撃が始まった。それに対してAl:Spawnはごく自然に、まるで自転車にも乗るかのように銃器を発砲した。クラウンズたちの腹や頭を撃ち抜いていく。 Al:Spawnはビデオゲームで点数を稼ぐかのように銃を撃ち続けていた。そして地下鉄の車両の中に入っていく。そこにはクラウンズの一人が少女の喉元に刃物を当てていた。「どうか、助けて…」少女の目からは涙が流れていた。Al:Spawnはそのクラウンズの眉間を撃ち抜いた。「大丈夫か？」Al:Spawnは少女に声をかけるが、彼女の顔にもクラウンの紋様が刻まれ、クラウンズの仲間入りをしてしまう。そして大勢のクラウンズが一斉にAl:Spawnに襲いかかる。Al:Spawnは銃を奪われてしまう。すると少女が声をかけてきた。彼女のこめかみに銃を当て、引き金を引く。「No…」そしてクラウンズたちはそれぞれの手に手榴弾を持っていた。Al:Spawnは咄嗟に車両の外に逃げ出した。 手榴弾は一斉に爆発し、地下鉄の構内は30ブロック先まで炎に包まれた。そこに響いてた叫び声は狂人たちのものではなかった。それは無実の者たちの恐ろしい悲鳴で、突然、自分たちの運命を悟った感覚に変わっていく。その叫び声はAl:Spawnの耳からは離れることはないだろう。お前は自分をヒーローと思っていて、土壇場で勝利を収めるために立ち上がった。自分は事態を変えられると考えていた。だが、私はお前に警告したよな。お前を破滅に追い込む方法は沢山あると。